2011年1月23日日曜日

(1月13日-4)BIS自己資本最終要素案

BISが金融機関の自己資本の質を向上させるための最終要素を公表した。金融危機に際して、公的資金の注入による民間金融機関の救済は、いわゆる「To big too fail (余りに大きすぎて潰せない)」という考え方の下、モラルハザード的な金融機関の行動、その結果、彼らの失敗が国民負担に転嫁されるという大きな反省点と国民の怒りを残した。このような事態を二度と招かないようにするために、バーゼル銀行監督委員会は、資本に組み込む調達自己資本の性格について、新たな案を発表した。

その内容は、普通株以外、Tier2資本など(劣後債など)は公的資金の注入により、その価値を事実上保証されたようになっているのだが、「トリガー事由」が発生した場合には、各資本形態で構成されている自己資本の所有者がまず身を切るというもので、その後に公的資金が注入される、つまりは「投資家に責任を負ってもらうのが普通じゃないか」というものである。

ただ、問題はこの「トリガー事由」である。これは4項目目に書かれているが、政府当局が関係当局と決定することができるというものだ。このような金融危機というのは誰の目に見ても「ヤバイ」というのが分かるのだが、例えば日本の過去の金融危機の例を考えてみると、りそな銀行への公的資金注入が決定されたときは、繰延税金資産の自己資本への算入を巡って、銀行首脳と監査当局の見解がぶつかり合ったときであった。このような判断というのはひとえに政治的である。りそなの例については、その後銀行経営の建て直しに着実に歩みを進めている現状をみると正解だったのかもしれない。しかし、客観的に公明正大に「大きな問題が発生している」とだれが判断できるだろうか。運用事例を期待することは、国家経済の失敗事例を何処かがやってくれることを意味する。そのため、前例からどうだという想定問答を考えることは、現時点では難しい。

いずれにしろ、議論するのは良い。そして、問題が記憶の奥に忘れ去られ、教訓として生きないことは悪い。金融規制のもんだいは至極人為的なトピックである。今後も行方を見守りたい。

【BIS】
Press release
Basel Committee issues final elements of the reforms to raise the quality of regulatory capital
13 January 2011
http://www.bis.org/press/p110113.pdf

【日本銀行】
バーゼル銀行監督委員会によるプレス・リリース「バーゼル銀行監督委員会による規制資本の質を向上させるための改革の最終要素の公表」の公表について
2011年1月14日
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc11/bis1101b.htm

【金融庁】
バーゼル銀行監督委員会によるプレス・リリース「バーゼル銀行監督委員会による規制資本の質を向上させるための改革の最終要素の公表」の公表について
平成23年1月14日
金融庁
http://www.fsa.go.jp/inter/bis/20110114-1.html

バーゼル銀行監督委員会は、1月13日、規制資本の質を向上させるための改革の最終要素に関するプレス・リリースを公表しました。

『During the financial crisis a number of distressed banks were rescued by the public sector injecting funds in the form of common equity and other forms of Tier 1 capital. While this had the effect of supporting depositors it also meant that Tier 2 capital instruments (mainly subordinated debt), and in some cases Tier 1 instruments, did not absorb losses incurred by certain large internationally-active banks that would have failed had the public sector not provided support.(金融危機の間、公的セクターが普通株やその他のTier1資本の形態で資金を注入することにより、数多くの危機に瀕した銀行が救済された。このことは預金者を支援する効果を有した一方で、仮に公的セクターが支援を提供しなければ破綻していたであろう国際的に活動する巨大な銀行の一部が発生させた損失を、Tier2資本商品(主に劣後債務)及びいくつかのケースではTier1資本商品が吸収しなかったことも意味している。)』

『Scope and post trigger instrument(対象範囲とトリガー事由発生後の資本商品)

1.The terms and conditions of all non-common Tier 1 and Tier 2 instruments issued by an internationally active bank must have a provision that requires such instruments, at the option of the relevant authority, to either be written off or converted into common equity upon the occurrence of the trigger event(1. 国際的に活動する銀行により発行されるその他Tier1とTier2資本商品の全ては、トリガー事由が発生した場合に、元本削減か普通株転換が、関係当局の判断により、なされることが義務付けられる契約条項を発行条件に含んでいなければならない。)』

『Trigger event(トリガー事由)

4.The trigger event is the earlier of: (1) a decision that a write-off, without which the firm would become non-viable, is necessary, as determined by the relevant authority; and (2) the decision to make a public sector injection of capital, or equivalent support, without which the firm would have become non-viable, as determined by the relevant authority.(4. トリガー事由は次のうち早く発生したものとする:(1)元本削減がなければ銀行が存続不可能にとなるとして、元本削減が必要である、と関係当局によって決定された場合。(2)公的セクターによる資本注入もしくは同等の支援がなければ銀行が存続不可能になるとして、当該支援が関係当局によって決定された場合。)

5.The issuance of any new shares as a result of the trigger event must occur prior to any public sector injection of capital so that the capital provided by the public sector is not diluted.(5. トリガー事由発生の結果としての新株の発行は、公的セクターによって提供された資本が希薄化しないように、公的セクターの資本注入より前に行われなければならない。)』

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