2010年3月23日火曜日

(3月8日)経常収支と配当本国還流

市場の関心は開催中の全人代やギリシャ問題の行方に集中していて、それ以外のことは特に何かあったとは思い出せないのだが、とりあえず日本の1月国際収支統計が発表されていたので見てみよう。経常収支は季節調整済みで1兆7128億円となり、12月の1兆3022億円から約4千億円も黒字額が増加した。そのうち、貿易収支は9943億円の黒字となっている。

平成22年3月8日
財務省
報 道 発 表
平成22年1月中 国際収支状況(速報)の概要
http://www.mof.go.jp/bop/pg2201.htm

貿易収支の改善が著しいのはアジア向け輸出の増加であり、中国の景気拡大が貿易活動を通じて日本へも良い結果をもたらしていると言える。日本経済はまたもや外需主導の景気回復経路を辿るのだろう。一方で注目されているのが、年度末に向けて企業が海外子会社からどの程度日本の本社に配当による利益の還流を行うかという問題だ。この資金還流が円高要因になっているという見方がある。

これは、2009年4月以降に実効となった「海外子会社からの受取配当の益金不算入制度」というものである。保有期間6ヶ月以上の外国子会社で、出資比率が25%以上ある企業からの日本の本社への配当金について、配当の95%を益金不参入、つまり課税対象と見なさないと言うものである。

直接投資については日本への還流金である配当受取と、現地でロールオーバーのような形になっている再投資という2項目に分類されていて、本国還流分は配当受取で明確に分離されている。一方、直接投資ほど出資比率のない証券投資による株式の配当受取りについては、還流分と再投資分は分離されていない。利子所得も同様である。これが何が問題になるのかと言うと、例えば今回2010年1月は直接投資における配当受取による日本への資金還流が1881億円あるのに対し、証券投資における株式投資の配当が1677億円、債券投資による利子収入が6633億円あるのだが、この証券投資の配当・利子所得のどの程度が日本に還流しているかが良くわからないのだ。

この直接投資による配当受取だけを見ると、2009年1月の757億円から2010年1月の1881億円に1124億円も円買い圧力が生じていると言えるのだが、証券投資の株式配当受取は2009年の1428億円から2010年の1677億円へ249億円増えていて、しかし、債券の利子受取は7494億円から6633億円へと861億円も減少しているのだ。つまり、この3者を足すと、去年の1月から512億円しか増えていないことになる(512=1124+249-861)。だが、証券投資の配当・利子収入は、どれだけ還流しているのか、現地で滞留しているのか、良くわからないのだ。

億円    経常収支 貿易収支  直接投資 証券投資
                    配当受取 配当受取 利子受取
08年 1月 21,135   10,769    724   1,934   10,718
   2月 20,177    8,746    841   2,857   11,379
   3月 19,403    7,492   5,417   4,743    9,318
   4月 15,417    5,130   1,669   1,970    8,734
   5月 20,478    8,861   2,541   2,965    9,104
   6月  9,142    -971   3,192   3,524    8,548
   7月 14,656    3,940   2,224   2,258   10,847
   8月 10,776     614   1,640   1,794    9,548
   9月  9,827    -695   2,860   2,983    9,498
  10月 10,769    1,124    718   1,573    8,914
  11月  7,414   -2,028    488   1,096    8,252
  12月  6,136   -1,752   1,875   2,467    7,473
09年 1月  5,342   -2,601    757   1,428    7,494
   2月  8,051     538    495    719    8,656
   3月  8,820    -322   7,976   2,109    7,964
   4月  8,796    1,454   2,052   1,261    6,979
   5月 10,755    4,166   2,615   1,804    6,951
   6月 15,604    4,712   5,334   2,414    6,991
   7月 11,580    4,785   2,516   2,263    8,169
   8月 11,571    4,499   1,130   1,159    7,822
   9月 11,612    2,621   3,106   1,748    6,749
  10月 14,811    8,271    821   1,035    6,856
  11月 12,722    5,589   1,069    841    7,306
  12月 13,022    6,610   2,368   1,912    5,560
10年 1月 17,128    9,943   1,881   1,677    6,633
(経常収支、貿易収支は季節調整済み)

ここからは勝手な想像であるが、一般的に、統計とはその利用者が有る目的をもって作っていると考えたほうが良い。日本の貿易統計が通関統計といわれているのは、関税を掛ける分類に関連しているからで、必ずしもエコノミックな分析をする人用に分類されているわけではない。これが、色々分析者にとっては面倒な区分になっているのだが。同様に、国際収支統計も、徴税を把握するために利用されている面もあるだろう。つまり、直接投資による配当還流については還流先の本国、つまり日本がどれだけ税金を徴収することができるかというのを把握するためにあるとも見受けることができ、配当還流された海外利益には、日本の法人税や所得税の網がかかって総合課税になる。一方で、証券投資の配当・利子所得については、現地における源泉分離課税が適用されていて、そこで課税関係が終わっているから、別に還流しているかしていないかを分類しなくても良いのではという意図があるような気がする。

債券の利子受取は、海外の金利低下を受けて大分下がっている。日本では分配多数回型の投資信託が個人投資家に人気であり、投信の配当還流、その大元は投信が外国債券を買っているため、債券の利子還流の部分がある程度占有していると思われるが、その利子還流の減少という部分が海外子会社からの配当増分を相殺している面があるのではないかと思う。想像だけど。

そう考えると、この配当還流というフローの数百億程度の前年差でピーピーこの問題を取り上げるよりは、投信でも外国株でも、ストック増減の面から、個人投資家を出発点とする対外証券投資の増減額の方が、為替の材料として大きいのではないか?


《ニュース備忘録》

【ロイター】
BIS、新理事長にノワイエ仏中銀総裁を選出
2010年 03月 8日 21:39 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14234620100308
3月7日付で就任した。任期は3年間。

【ロイター】
米FDIC、年金基金に破綻銀行への出資を呼びかけ=報道
2010年 03月 8日 17:09 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14232320100308

【ロイター】
人民元の上昇、G20の議題に含まれる=韓国企画財政相
2010年 03月 8日 13:53 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14228020100308

【ロイター】
米財政赤字、オバマ大統領の予想上回る見通し=議会予算局
2010年 03月 8日 12:53 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14226520100308

【ロイター】
ユーロ圏はギリシャ問題克服を支援、投機取り締まりへ=仏大統領
2010年 03月 8日 09:57 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14221120100308
ギリシャのパパンドレウ首相は5日、メルケル独首相、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の議長を務めるルクセンブルクのユンケル首相と会談。7日には米首脳と会談するため、ワシントンに出発した。

【ロイター】
アイスランド国民投票、英蘭への預金返済法案を否決
2010年 03月 8日 09:06 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14219120100308
アイスランド政府は7日、経営破たんした同国オンライン銀行「アイスセーブ」に預金していた英国とオランダの預金者に総額約50億ドルを返済する法案が、6日実施した国民投票で否決されたことを受け、新たな債務協定の迅速な締結に向けて英国、オランダと交渉を再開する方針を明らかにした。

【ロイター】
商業銀行、規制なければヘッジファンド化=ボルカー氏
2010年 03月 8日 08:59 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14218520100307

【ロイター】
「特別な」人民元政策、最終的に廃止必要=中国人民銀行総裁
2010年 03月 8日 07:48 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14217520100307
「非正規の政策を解除し、通常の経済政策に戻る際は、時期を極めて慎重に選ぶ必要がある。人民元政策についても同様だ」

【ブルームバーグ】
アイスランド国民投票:93%が英蘭への預金返済法案に反対-国営TV
2010/03/07 19:41 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90900001&sid=aJpVcMwbJ5Ro

【ブルームバーグ】
人民銀の周総裁:中国は危機対策の出口戦略で「慎重」な姿勢を
2010/03/06 15:27 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920010&sid=aKgqeIwxLgDc

【ブルームバーグ】
人民銀の蘇副総裁:緩やかで長期的な元の上昇は中国にプラス
2010/03/06 14:41 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920010&sid=aTBto6tAwIFI

【ブルームバーグ】
中国政府が為替政策を微調整も、経済危機対応で-人民銀総裁
2010/03/06 12:30 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920010&sid=aPzsd_5ozUS8

【ブルームバーグ】
オバマ大統領の予算案、今後10年の財政赤字を過小評価-CBO
2010/03/06 10:07 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920010&sid=aZNx7X_oAGGk

【ブルームバーグ】
ギリシャ財政問題は投機抑制の必要示す、デリバティブ規制へ-独首相
2010/03/06 09:03 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=a2Q.U9ajnX2A

【ブルームバーグ】
ギリシャ首相:赤字削減のための島売却は「論外」-独議員に反論
2010/03/06 07:49 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=a6ZoNXQJ5u3Y

【ロイター】
2月米雇用統計は予想上回る内容、失業率は依然高過ぎる=オバマ大統領
2010年 03月 6日 04:14 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14211220100305

【ロイター】
ギリシャ公共・民間最大労組が3月11日にスト実施へ、労働力人口の半分に相当
2010年 03月 6日 01:41 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14210320100305
ギリシャ最大の公務員労組連合組織「ギリシャ公務員連合」(ADEDY)と同国最大の民間企業労組連合組織「ギリシャ労働総同盟」(GSEE)は5日、同国政府が新たな緊縮財政措置を決めたことに反発し、11日にストライキを行う方針を示した。両労働組合にはギリシャの労働力人口の半分に相当する約250万人が加盟している。

【ロイター】
2月米雇用者数‐3.6万人で予想ほど落ち込まず、大雪の影響不透明
2010年 03月 6日 00:11 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14210020100305

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