2009年11月1日日曜日

(10月30日)日銀展望レポート

3ヶ月に1度、日本銀行は経済・物価情勢の展望と題し、政策委員が先行きの経済・物価についてどのような見通しを持っているかということを発表している。彼らがどのような景気のパス(経路)を念頭に金融政策の決定を行っているかということを考えることで、将来の金融政策の方向性についての市場の期待を形成する、あるいはこの発信に対して市場がイールドカーブなどで反応するという「対話」を通じることによって、円滑な金融市場の進展を意図する手段とも言える。

もともと、金融政策は様々な経済事象に対して「政策金利」という唯一の武器(他にも、様々な技術的オペレーション手段はあるのだが、そのニッチなマーケット参加者にしか理解できない部分も大きいため、あまねく期待に働きかけるとするなら金利という分かりやすい手段しかないと思われる)で立ち向かうという苦しい戦いを迫られている。その刀が敵をなぎ倒す武器にもなれば、それを包丁の様に転用して日々の糧を得る、あるいは木材を加工して家を建てるといった、さまざまなものに応用しなければならない。よって、金融政策を遂行する上では「自由度」が必要である。

もともと、いわゆる「展望レポート」は2000年10月に速水元日銀総裁の下で発表された『「物価の安定」についての考え方』の発表を機にしている。

「物価の安定」についての考え方
2000年10月13日
日本銀行
http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji/kako02/k001013a.htm

当時、日本経済は景気回復感に乏しく、政府からは度重なるインフレ・ターゲット導入圧力がかかっていた。そこで、日銀は2000年3月13日の会合で

(1) 「物価の安定」の基本的な考え方
(2) 物価の計測(物価指数)を巡る諸問題
(3) 最近のわが国の物価動向
(4) 「物価の安定」の数値化を巡る諸問題

について取りまとめることを公表した。そして、10月13日に出てきた結論は、

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日本銀行は、「物価の安定」の定義を数値で示すことは適当でないと判断したが、「物価の安定」を判断する際の視点を示すことは可能であり、かつ有益であると判断した。日本銀行が重要と考える視点は以下の3点である。

(1)多様な物価関連指標による物価変動の性格の点検
(2)物価安定の持続性
(3)経済の健全な発展との整合性

日本銀行は、金融政策運営の透明性向上の観点から、政策委員会としての「経済・物価の将来展望とリスク評価」を公表し、上記の視点を踏まえた物価情勢に関する評価を示すとともに、その中で、先行きの物価上昇率や経済成長率についての「政策委員の見通し」を公表していくこととした。
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として、インフレ・ターゲティングの公表は行わなかった(踏みとどまった)が、政策委員の見通しを公表することにした。インフレ・ターゲットを採用しなかった理由となる論点は、以下の4点が挙げられている。

(1)物価指数にはバイアスが存在し、その幅について信頼し得る推定値を得ることは容易ではない。しかも、バイアスの幅が変動する可能性も存在する。
(2)名目金利はゼロを下回って低下し得ないことなどを考えると、金融政策は経済がデフレ・スパイラルに陥ることのないよう十分注意して運営されるべきである。この面からは、金融政策の運営上は物価指数の変化率でみて若干プラスの上昇率を目指すべきとの考え方は、検討に値する。
(3)物価の変動が需要サイドの要因によるものか、それとも供給サイドの要因によるものかによって、金融政策の対応のあり方も変わってくる可能性がある。
(4)バブルの経験に照らすと、物価指数が安定していても、資産価格の変動が経済の大きな変動をもたらす可能性も存在する。

また、インフレ・ターゲットを設定したからと言って、その目標を達成する手段が「政策金利の変更」だけでは困難だろうという考え方があり、確かに当時は「物価目標を立てろ。やり方は任せる。」という無茶な発言が政治サイドから出ていた。「刀一つで広大な畑を全部耕せ。やりかたは任せる。」というような指令には無茶がある。そして、日銀はこの公表した政策委員の見通しを『中長期的にみて物価が安定していると各政策委員が理解する物価上昇率(「中長期的な物価安定の理解」)』という形、『理解』とする位置づけにした。個人的には、インフレに対しては物価目標は有効に働くが、デフレに対しては物価目標はあまり有効ではないと思われる。そういう意味で、世間では速水元総裁に対する批判は多いが、個人的には速水元総裁と同時期の山口副総裁は良識的な判断をしたと今でも思っている。(ゼロ金利解除は議論のあるところだが。。。)

「物価の安定」についての考え方
http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji_new/mpo0603a.htm
以後、展望レポートは4月と10月の半年に1度のペースで公表されてきたが、2003年10月からはその間の1月と7月に展望レポートの中間評価を行うことを決定している。

金融政策の透明性の強化について
2003年10月10日
日本銀行
http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji/kako03/k031010b.htm

今回発表された政策委員の見通しは以下の様になっている。今回、2011年の経済見通しが発表になった。経済や物価見通しは7月の中間評価時と比べて上方修正されているが、その幅は微々たる物で、2010年の経済成長が1%前後。今年3%強の景気悪化が予想されている中で、その半分も回復できていないということになる。さらに、消費者物価は2011年になってもマイナスの伸びに止まるということは、デフレがそこまで続くということの示唆と言える。つまりは、マイナスの物価上昇率を政策委員が容認するようなことが無い限り、そのほかの資産価格やなんらかの新しい事象で、物価の安定が阻害されていると判断されない限り、2011年も超低金利が続くと言うことを意味している。

見通し      実質GDP   国内企業物価指数   消費者物価指数(除く生鮮食品)
2009年度  -3.3 ~ -3.2     -5.3 ~ -5.0         -1.5 ~ -1.5
2010年度   0.8 ~ 1.3     -1.5 ~ -1.0        -0.9 ~ -0.7
2011年度   1.6 ~ 2.4      -1.0 ~ -0.3        -0.7 ~ -0.4
7月時点の見通し
2009年度  -3.7 ~ -3.0    -6.0 ~ -5.8         -1.5 ~ -1.2
2010年度   0.6 ~ 1.1      -2.1 ~ -1.5         -1.2 ~ -0.7

今回の「展望レポート」の末尾には「金融政策運営に当たっては、きわめて緩和的な金融環境を維持していく方針である。日本銀行としては、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰していくことを粘り強く支援していく考えである。」と述べられており、日本の金利は長期間にわたり、低位に据え置かれる可能性が非常に強い。

金融調節手段の変更についてはまたの機会に。日本の経済統計もちょっとパス。


《ニュース備忘録》

【ロイター】
米CITの破産法適用申請の可能性高まる、アイカーン氏が支持
2009年 10月 31日 12:13 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12230020091031

【ロイター】
FRB、銀行に系列企業への融資認める緊急流動性対策延長せず
2009年 10月 31日 12:05 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12229920091031

【ロイター】
米株式市場でシティ急落、繰延税金資産めぐる損失懸念で
2009年 10月 31日 09:50 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12229420091031

【ロイター】
中国版ナスダック、全銘柄がザラ場で公募価格の倍以上に
2009年 10月 30日 18:59 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12222820091030

【ロイター】
財務省が09年度国債発行計画を見直し、市中発行132.3兆円に
2009年 10月 30日 18:55 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-12222520091030

【ロイター】
極めて緩和的金融環境を維持、本格的成長になお時間=日銀総裁
2009年 10月 30日 17:32 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12221020091030

【ロイター】
潜在成長率を「0%台半ば」に下方修正=日銀展望リポート
2009年 10月 30日 15:15 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12213020091030

【ロイター】
米下院の医療保険改革法案、製薬・保険会社に打撃か
2009年 10月 30日 14:49 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12212320091030

【ロイター】
中国版ナスダック「創業板」、株価急騰で一時売買停止
2009年 10月 30日 12:45 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12209120091030

【ロイター】
適度に緩和的な金融政策を堅持=中国人民銀行総裁
2009年 10月 30日 12:14 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-12207420091030

【ロイター】
米下院エネルギー・商業委、消費者金融保護局の創設法案を承認
2009年 10月 30日 08:43 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-12199720091029

【ロイター】
米下院民主党が医療保険改革法案を公表
2009年 10月 30日 04:50 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-12196120091029

【ロイター】
米FRBの国債購入額が3000億ドル到達、買い入れ終了のもよう
2009年 10月 30日 04:48 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12196320091029

【ロイター】
第3四半期の米GDP速報値+3.5%、5四半期ぶりプラス
2009年 10月 30日 00:56 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12194220091029

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