日本銀行は10月30日の発表で各種時限措置の取り扱いを発表した。先般の金融危機によって信用市場のリスクプレミアムが異常な値を付ける中で、金融市場機能を維持するために様々な非伝統的金融政策を打ち出した。それらの概要は、日本銀行の以下のHPに掲載されている。
今次金融危機局面において日本銀行が講じてきた政策
http://www.boj.or.jp/type/exp/seisaku_cfc/index.htm
このうち、企業金融円滑化の支援ための措置としては6つが挙げられており、①CP買現先オペの積極活用(2008年10月14日公表)、②資産担保CPの適格担保の要件緩和(2008年10月14日公表)、③企業金融支援特別オペの導入・拡充(2008年12月2日公表)、④民間企業債務の適格担保の要件緩和(2008年12月2日公表)、⑤CP等買入れ(2008年12月19日公表)、⑥社債買入れ(2009年1月22日公表)。
それぞれの利用情報、残高などについては、最近日銀がとても詳しいページを作成しており、以下のページを見ると良い、一番下にはcsv形式のデータもあるため、これらのページは後世非伝統的金融政策から日銀が脱却できたとしても、歴史的資料として是非残して欲しいと思っている。
日本銀行のバランスシートの変化と担保の受入れ状況
http://www.boj.or.jp/type/exp/seisaku_cfc/index.htm#03
さて、そこでここで上記①~⑥までの残高を見てみると、①については金融危機以前は基本的に3の倍数月に1回3千億のオファーで資金供給が行われていたようだが、金融危機の発生によってその頻度が増加し、2008年10月から1回当たりのオペの金額は4千億に増えた。(11月には6千億のオペとなったが、2009年1月からは4千億に戻っている)。2009年10月には9本のCP現先オペが打たれており、もちろんいずれも応札の未達は起こしていない。2009年2月以降は、大体4千×7本のCP現先オペが月末をまたぐ勘定になっており、足下で2兆8千億程度の残高がある。よって、このオペはそれだけ信用市場の資金繰りに貢献していると言えるため、早々にやめることは出来ない。
②の資産担保CPの適格担保の緩和要件については、9月末時点の日銀が受け入れている担保残高として、資産担保CP残高が額面で2349億円ある。2008年10月14日の発表では、「担保およびCP現先オペの対象資産として、日本銀行取引先の保証するABCPを適格とする。」とあるので、資産担保CPの適格担保化による担保差し入れはここから始まった(と思う)。そして、上述の通り、これが担保としていくらか差し入れられており、利用されているので、まぁこれも早々に止めなくても良いだろう。
③の企業金融支援特別オペは、2008年12月2日の発表文を見ると「共通担保として差入れられている民間企業債務の担保価額の範囲内で、金額に制限を設けずに、無担保コールレートの誘導目標と同水準の金利で、年度末越え資金を供給するオペレーション」とあるので、期末超えの資金繰りに重要といえるセーフティーネットである。2009年1月にスタートし、3末を超えてもオペの需要が残っており、2009年10月も4回、12末越えのオペが打たれており、合計2兆5446億円、貸付利率0.1%で資金が供給されている。9月時点で約7兆円の残高があり、このオペも止められない。
④の民間企業債務の適格担保範囲の拡大については、当時行われたことは従来の「A格相当以上」から「BBB格相当以上」に適格担保を緩和したわけだが、格付け別の担保の残高データが見当たらないのでパス。
⑤のCP等買入れは、マスコミでも言われているが、応札がゼロとなっている。10月には3回のオペが打たれているが、いずれも応札ゼロだ。これは止めてしまって良い。
⑥の社債買入れはCP等買入れと同じで殆ど活用されておらず、10月の1回のオペでたった96億の応札だった。これも止めてしまっても良い。
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このようなオペレーションの背景がある中で、10月30日に公表された金融政策では、政策金利の据え置き(当然)が公表される一方、これら「企業金融円滑化の支援ための措置」に関しての取り扱い、利用の方向性が示された。
①のCP買現先オペは、今も昔も活用されていた手段であるし、平常時であっても止めるオペレーションではないので何も言及が無かった。金額の増減については特に金融政策決定会合で取り決められているものではないので、その時その時に応じて変化してゆくのだろう。
この時の発表は4つ。(1)一つ目の③企業金融支援特別オペについては、「年度末に向け、金融市場の安定確保に万全を期すため」として、「その実施期限を来年3月末まで延長した上で完了する。4月以降は、より広範な担保を利用できる共通担保オペ等の金融調節手段を活用して潤沢な資金供給を行う態勢に移行する。」とある。とりあえず、この非伝統的な金融政策は来年3月末まで延長して、そこで終了、出口を迎えることになる。ただし、別のオペレーションに引き継がれるため、激変が起きるわけではないが、0.1%(現時点で政策金利と同等)出無制限に借りられなくなるのは、少しマイナスだ。だが、こんな特別扱いは早々に無くなったほうが良いと思うし、10月中の短期オペは、だいたい0.13%でオペ参加者は資金が取れているので、数ベーシス(1ベーシスは100分の1%)のコストは、金融市場が安定化した現在、まぁ受け入れて当然と言える。期末越えという特別な調達が超々低利で出来なくなるのは仕方ない。
(2)はCP・社債買入れを今年12月末で終了するということだが、上記の様に殆ど需要がないので、さっさと止めてしまって良い。(以前も書いた)。このような実情を理解せずにただイチャモンを付けた人は、もうちょっと実情を勉強してから文句を言ったら良い。(たとえば、「下限利回りをもっと下げれば入札者が居るんじゃないのか?」と言うとか)。そこまでして続けるのもどうかと思うので、まぁ分からない人にはこのオペの終了は引き締めと映るのかも知れないが、例えて言うならば、お店の陳列棚にその商品スペースが確保されていて、値札が貼ってあるけれど、既に商品の供給者が生産を停止してしまっているので、ただその値札を外すだけという行為に他ならないと言えよう。
(3)は適格担保の条件緩和を来年12月まで延長するということであり、私自身短期オペの担当者で無いので、その担保繰りとか良くわからないが、まぁ良し(?)と言える(??)
(4)に公表されていた補完当座預金制度とは、『日本銀行が金融機関等から受入れる当座預金のうち、いわゆる「超過準備」(準備預金制度に基づく所要準備を超える金額)に利息を付すもの』である。これを「当分の間延長する」ということだが、まぁ良いのではないか。(?)
この様に見てくると、10月30日に発表された各種時限措置の取り扱いで発表された内容は、出口戦略とほぼ遠い、敢えて100歩、1000歩譲っても「微調整」でしかないと思う。技術的なことが多いのは「非伝統的な金融政策」であるから仕方ないが、目くじらを立てて怒ったり、異様に心配したりする必要は無い。
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