ECBとBOEが金融安定性報告書を発表した。BOEについてはリンク添付のみで、数値が具体的に記入してあったECBの方について備忘録を残す。
【ECB】
PRESS RELEASE
18 December 2009 - Financial Stability Review December 2009
http://www.ecb.int/press/pr/date/2009/html/pr091218.en.html
Financial Stability Review
http://www.ecb.int/pub/fsr/html/index.en.html
Financial Stability Review(pdfファイル)
December 2009
http://www.ecb.int/pub/pdf/other/financialstabilityreview200912en.pdf?d302ba84cef5d0e679325c2d9b585d46
【BOE】
Financial Stability Report
Contents, Issue 26
18 December 2009
http://www.bankofengland.co.uk/publications/fsr/2009/fsr26.htm
ECBの金融安定性報告書では、Large and Complex Banking Groups (LCBGs)と、特に大手行で国際業務を営む多角化した金融機関を対象とした分析が行われている。その中で8金融機関のみが過去からの比較対象可能な財務諸表のディスクローズを行っており、この8行の資本に関した分析をまず行っている。
コアTier1については普通株(Equity base)に少数株主持分(Minority interests)を足し、暖簾代や無形資産(Deduct goodwill and other intangibles)、調整項目(Regulatory deductions)を除いたものとしている。これらにハイブリッド商品を足したものがTier1である。日本の金融機関はこのハイブリッドがTier1に占める比率が大きいので、コアTier1の議論にバーゼルの自己資本比率が厳格化を強めることになると、厳しいと言われている。
このTier1にTier2とTier3資本を加えて調整項で加減したものが自己資本となる。この、彼方此方に出てくる調整項目は良くわからない。
自己資本の増減については、2008年12月から2009年6月にかけて240億ユーロ(=3330-3090)増加している。その内訳として、普通株資本が330億ユーロ(=2660-2330)増加しており、自己資本の調達が進んでいることが示された。引かれている部分は暖簾代や無形資産の減少で、これが-170億ユーロ(=-760-(-590))で、これはバランスシートの健全な変化と言える。
8金融機関の資本状況
(10億ユーロ) 08年12月 09年6月 % change
普通株 233 266 14
少数株主持分 14 13 -2
対Tier1比率 6.0% 5.4%
暖簾代や無形資産 -59 -76 28
調整項目 -8 -11 33
コアTier1 179 191 7
ハイブリッド合計 48 52 8
対Tier1比率 21.2% 21.4%
その他ハイブリッド 2 1 -39
対Tier1比率 0.7% 0.4%
Tier1資本 227 244 7
下位Tier2 87 94 8
上位Tier2 2 3 18
Tier3 1 1 0
調整項目 -7 -8 12
その他 2 2 -6
補助資本 85 92 8
調整項目 -4 -2
その他調整 0 0
資本合計 309 333 8
リスク資産合計 2,492 2,608 5
資産合計 8,536 8,260 -3
有形資産 8,477 8,184 -3
コアTier1比率 7.2% 7.3%
自己資本比率 12.4% 12.8%
資本資産比率 2.7% 3.2%
有形株式有形資産比率 2.1% 2.3%
リスク資産は2兆4920億ユーロから2兆6080億ユーロへと1160億ユーロ増加している。これが、与信の拡大なのか、クレジットのダウングレードによるものかは良くわからない。コアTier1比率は7.2%から7.3%へと増加しており、比率で見れば若干の健全性強化である。バーゼル委員会が求めているコアTier1比率が4%と言われているので、まずまずクリアしていると言える。先日発表されたバーゼル委員会のコア資本は普通株と内部留保で構成されるとの試案が出されているので、このECBの金融安定性報告書におけるコアTier1と違いは少ないと見られる。
続いて、保有資産の損失推計額についてみる。金融危機の危機感が後退して、それほど注目度も高くなくなっているようだが、こちらも前回より健全化が進んでいるとの答えが示されている。資産クラスを資産を担保にした証券化商品、通常の債券や株式などの証券、そしてローンと3種類に分解する。09年6月時点の損失から09年12月時点の推計累計損失額の変化は、証券化商品が270億ユーロ増額の1690億ユーロ、その他証券が60億ユーロ増額の280億ユーロ、ローンが310億ユーロ増額の3550億ユーロとなり、合計650億ユーロ増額の5530億ユーロとなった。
前回からの損失増額となった大きな項目は、証券化商品がCDOs(証券化商品担保証券)の152億ユーロの増額、一般的な証券は中東欧発行債券の128億ユーロ、ローンは商業用不動産モーゲージローンが377億ユーロだが、中東欧債券と商業用不動産モーゲージ は前回の金融安定性報告書では項目が建てられていなかったので、たぶん調整項目に押し込められていた部分もあるのだろう。
一方で前回と比較可能な項目としては、消費者ローンの損失が172億ユーロ、企業向け貸付(ローン)が206億ユーロ、それぞれ損失推 計累計額が増額されていた。米国に端を発した証券化商品の問題は沈静化しているようだが、景気悪化の影響による一般的なロー ンなどの貸出し分野で傷が深くなりつつあるのが問題と言える。
10億ユーロ 推計保有額 損失推計額 推計損失率
09年6月 09年12月
RMBSs 住宅モーゲージ担保証券 444 46.6 55.7 12.5
ABSs 資産担保証券 191 4.5 3.6 1.9
CDOs(ABS,RMBS) 証券化商品担保証券 145 68.4 83.6 57.7
CMBSs 商業用不動産担保証券 79 14.3 20.2 25.6
CLOs ローン担保証券 231 8.3 5.7 2.5
ABCP 資産担保コマーシャルペーパー 12 0.2 1.7
CDOs(Corporate) 企業資産担保証券 20 0.3 1.7
証券化商品合計 1122 142 169 15.1
企業債券(社債) 255 6.2 2.4
カバードボンド 150 0.0 0.0
銀行債 660 0.0 0.0
株式 157 3.8 2.4
中東欧発行債券 263 12.8 4.9
その他証券 231 5.6 2.4
調整項 21.8
その他証券合計 1717 22 28 1.6
証券合計 2839 164 198 7
住宅モーゲージ 3683 33.1 44.3 1.2
消費者ローン 1481 46.6 63.8 4.3
商業用不動産モーゲージ 781 37.7 4.8
企業ローン貸付 5125 172.9 193.5 3.8
シンジケートローン 354 15.7 4.5
調整項 71.4
ローン合計 11424 324 355 3.1
潜在的損失計上額合計 14263 488 553 3.9
評価損計上額 162 180
07年~08年の損失計上額 113 121
09年上半期推計損失計上額 65
潜在的追加損失計上額 214 187
この損失推計累計額5530億ユーロについて、どの程度が既に処理されていて、どの程度がまだ問題として残っているかを見ると、これまでの金融安定性報告書で報告されている損失額が180億ユーロ、2007~08年に既に計上されていると見られる損失額が121億ドル、09年上半期に計上したであろう損失推計額が65億ユーロで、合計3660億ユーロは対応済みとなっている。残り1870億ユーロが2010年の終わりまでに処理しなければならない金額だろうとの推計で、前回2140億ユーロから270億ユーロ減少している。
大手8行のLCBGsとこの損失推計額とを比べることが適切かどうかは分からないが、LCBGsの自己資本は3330億ユーロあるため、1870億ユーロの損失は極端なことを言えば賄える。ただし、コアTier1に限ると1910億ユーロであるため、1870億ユーロの損失はギリギリであり、自己資本比率に直すと当然コアTier1比率は4%を切る。
LCBGsのROEが2009年第2四半期と第3四半期にそれぞれ7.21%と6.41%であったため、時間を掛ければこの収益で損失額を賄うことはできるだろう。あとは、今、噴き出している南欧の問題が欧州圏の金融システムに再び衝撃を与えるような膿に発展してしまうかどうかだろう。
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