2010年7月4日日曜日

(6月30日-3)GPIF09年度決算

6月30日に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2009年度の運用状況を発表した。09年度の結果は、9兆1850億円の収益増と、2008年度の-9兆3481億円をほぼ穴埋めした格好である。ただし、収益額といっても配当金や利払などのキャッシュフロー収入と、時価評価の上昇によるキャピタルゲインと、その収益の源泉がどちらにあるかと言う分析は殆ど無い。たぶん、株価の上下動による収益の振れが大きいため、殆どがキャッシュフローを伴わないキャピタルゲインであろう。

細かく資産クラス別の収益額を見ると、市場運用分における国内債券が1兆2279億円、国内株式が3兆3510億円、外国債券が1315億円、外国株式が4兆1824億円、短期資産が10億円、非市場運用分の財投債が2912億円となっている。国内債券はコンスタントに比較的安定的な収益を創出しているが、国内株式の振れの大きさが特に目立つ。

平成21年度業務概況書
年金積立金管理運用独立行政法人
2010年6月30日
http://www.gpif.go.jp/kanri/pdf/kanri03_h21_p04.pdf

億円/%    資産残高   (参考)
         09年     10年  09年度 09年度  08年度  07年度
        3月末    3月末   収益額 収益率  収益額  収益額
国内債券   869,775   829,679  15,191        -93,481  -55,178
  市場運用 618,887   623,923  12,279   1.98   -96,670  -58,400
  財投債  250,888   205,756   2,912   1.26    8,700   17,165
国内株式   113,986   147,497  33,510  29.40  -50,613  -53,323
外国債券   100,135   101,449   1,315   1.32   -3,213    -483
外国株式    90,781   132,523  41,824  46.11   -48,547  -21,765
短期資産    1,608    17,277     10  0.16       3      6
合計     1,176,286  1,228,425  91,850   7.91    3,189   3,222

国内株式、外国債券、外国株式の3資産については、09年3月末から10年3月末への資産残高の増加が、ほぼ2009年度の収益額に一致しているので、この表からだけでも3資産への新規資金の投入や資金の引き出し(資産の純売却)は無く、再投資によるポートフォリオを維持する投資が行われていたことが透けて見える。

しかし、国内債券と短期資産については資産残高の変動が大きい。特に、財投債の残高が4.5兆円近く減少している。この大きな要因として、いよいよ年金保険料収入よりも年金の支払いが増えてきていることが挙げられる。2009年3月末時点の運用資産合計が117.6兆円、2010年3月末時点の運用資産合計が122.8兆円と、その残高は5.2兆円増加しているのだが、09年度の収益額は9.2兆円と、約4兆円が消えてしまっている。この原因を「寄託金の償還等」というページで見てみると、

財政融資資金への借入金償還・利払が   -3639億円
年金特別会計からの寄託金の受入れが  +4389億円
年金特別会計への寄託金の償還が   -4兆0217億円
その他運用手数料等の支払いが       -277億円
未払い費用等による調整             +33億円
合計                      -3兆9744億円

が残高が減少した原因となっている。この加減算は、全てキャッシュフローベースの動きであることに注意が必要であり、いくら2009年度の収益額が9.2兆円近くに上ったからとはいえ、この現金の流出は資金を用意しなければならないと言う点で意味合いが違う。

業務報告書には月次ベースの資金回収の状況等が記載されているが、年度ベースの結論を見ると、2009年度の資金の動きを見ると、市場運用分の国債から7200億円が回収され、非市場運用分の財投債からは4兆8044億円が回収されており、合わせて5兆5244億円が国内債券から別資産に移っている。その先としては、上記に述べている通り寄託金の純償還額と財政融資資金への償還等が合計で3兆9467億円の流出になっているほか、短期資産が2009年3月末から2010年3月末にかけて1兆5669億円増加している。つまり、短期資産をある程度積み立てておいて、将来の支払いに備え、資金需要によって突然の資産売却に迫られることが市場に悪い影響を及ぼさないようにとの配慮であると考えられる。この先も、市場への悪影響をなるべく軽減するため、財投債の償還を順次寄託金の償還等に当てることが予想される。

ただ、いつかはリスク資産の売却に迫られることになるだろう。今は国債相場に追い風が吹いていて、ある程度国内債券の自然償還や限定的な売却などで対応可能であろうが、今後の年金資金は投入以上に難しいEXIT戦略を考える局面にある。

こんな状況で、年金資金のキャッシュフローをわかっていない人たちが「ソブリン・ウェルス・ファンドを作れ」とか、いい加減なことを言わないで欲しい。今回は大幅な利益が計上されたから、新聞の紙面でも小さい扱いというなんだかなという状況だったが、損が出ると声を大きくして運用をプロに任せろとか、資金の性質をわかっていない人が言ってはいけない。相場環境がちょっと変化したら言う事がコロコロ変わるというのは、巨額の長期資金を扱うものにとって禁じ手である。

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