2010年4月4日日曜日

(3月31日)米中人民元摩擦

米中貿易・為替問題が佳境を迎えつつある。3月5日~14日の日程で開催された中国全人代に合わせ、オバマ大統領はその中間日程である3月11日に中国人民元の市場原理に基づく価格決定への移行を促す発言を行った。昨年12月7日から18日の日程で開かれたCOP15(気候変動第15回締約国会議)では、中国が自国の利益を優先して、温室効果ガスの削減義務導入を阻止したと言われている。このことに見られるように、中国の政治を見る際に重要なポイントは「自国優先」と「面子」である。この2点は、中国共産党が建国以来辿ってきた政治的道筋を振り返れば、非常に大きな決定要因であることは自明である。

全人代閉幕時の14日、温家宝首相は「人民元相場は過小評価されていない」とオバマ発言に反発した上で、「人民元の為替レートは中国が自ら、徐々に、合理的な範囲内で調整する」と3原則のようなものも述べている。その一方で、米国では中国の面子に配慮のかけらも見せず、自らの選挙区へのアピールに躍起になる議員団が居り、翌15日には超党派130人の議員団が「中国政府による人民元相場の操作で、米産業が被害を受けている」として、ガイトナー財務長官とロック商務長官に対し中国政府に対する行動を示すよう公開書簡を送り、続いて16日には民主党のシューマー上院議員と共和党のグラム上院議員がまとめた対中制裁法案が提出された。その内容は、毎年3月と9月に為替を不当に操作している国を認定する報告書を財務省に提出させ、それが認定された国が90日以内に是正措置を開始しない場合、商務省に対して対象国の製品にダンピング税率を計算する権限を与えると言うものだ。

これに関連して、米下院歳入委員会は、3月24日に中国の為替政策に関する公聴会を開くと3月15日に発表した。この様な政治日程に呼応するように、中国も鍾山商務次官が貿易問題の緩和を目的に3月24日~26日の日程で訪米すると発表。貿易問題の駆け引きがさらに激しくなった。3月24日、鍾山商務次官は米国商工会議所での講演で「人民元の切り上げは、良い解決法ではない」と語り、変更は徐々に行い安定化を図ることが望ましいと発言している。この見解は全人代終了後の温家宝首相の発言内容に沿ったものである。中国の為替政策の実務部隊は中国人民銀行の外国為替管理局(SAFE)であるが、最終的な意思決定は、表面上は国務院総理の温家宝首相にある。これらの一連の発言からは、人民元相場の柔軟化政策は、切り上げではなく、緩やかな変動相場であるクローリングペッグ(漸進的な平価変更)による相場管理へと移行するのが初期段階におきうるであろうことが示唆される。

一方の24日に開かれた米下院歳入委員会の公聴会では、ピーターソン国際経済研究所のバーグステン所長が「人民元は米ドルに対して、40%程度過小評価されている」と発言し、中国を「為替操作国として指定すべきだ」と断じた。このフレッド・バーグステンと言う人物は、1990年代のクリントン政権下で対日為替政策で影響力の大きかった論者であり、1992年12月に「1ドル=100円が望ましい」と語り、その後の円高基調に拍車をかけた人物である。様々なマスコミの報道を見ると、米国では人民元は25%~50%程度(かなり幅広であるが)過小評価されているという。この公聴会を受け、26日に米下院歳入委員会の民主党議員はオバマ大統領に対して25日付でレビン委員長を含む26名の民主党下院議員が署名した書簡を送り、オバマ大統領が目指す5年で輸出を倍増するとの目標達成は「中国が現在の為替政策を維持するならば難しい」と明記し、中国政府に対する人民元相場のより柔軟な対応を求めた。

この様な政治的相克が続く中で、中国政府は人民元相場が上昇したときの中国経済に与える影響を調査した「ストレステスト」を実施しているようだ。ストレステスト自体は中国商務部と中国工業情報化部が合同で2月下旬から実施しているようなのだが、ストレステストがニュースの文面に目立ち始めたのは3月18日頃に「中国財政部が3月下旬から広東、浙江、江蘇の3省および上海市で、人民元レートの上昇を想定したストレステストを始める可能性が高い」との報道が出たあたりであろう。その後、パラパラ散見されるストレステストについてのニュースは、何処が主導して行われているのかよく分からないのだが、例えば4月2日に新聞紙上で発表された内容によると、「人民元相場が3%上昇した場合、家電・携帯電話機器メーカーの利益は最大50%減る恐れがある。」「陶磁器の輸出業者の場合、利益維持のためには1%ポイントの人民元上昇しか許容できず、それ以上上昇した場合『年間輸出量が10万ドルを下回る業者の多くは、利益が出ない』。」という。この結果を見ると、明らかに人民元の切り上げは簡単にはできませんと言うことを表明しているようなものだ。ストレステストの結果は4月27日までに発表されると言う。

このような人民元相場を取り巻く動向の中で、胡錦濤国家主席がワシントンで4月12日~13日の日程で開かれる核安全保障サミットに参加するとの意向を4月1日に表明した。これに呼応し、オバマ大統領は約1時間、胡錦濤国家主席との会談を行った。世界的には対イランなどを念頭に置いた核安全保障の議論、米中関係では、グーグルの問題などが山積しており、米中関係の冷却化が懸念されているところであるが、人民元問題についても徐々に最終決定が近づきつつあることが伺える。2005年に人民元の切り上げを行ったときは、9月の訪米を前にした7月に切り上げが実施された。

人民元問題は米中間の経済問題というよりも、政治問題としての比重が明らかに高い。

4月15日に予定されていた米国半期為替報告書の発表が延期になったようだ。

《ニュース備忘録》

【ロイター】
ECB最後の6カ月オペ: 識者はこうみる
2010年 03月 31日 22:23 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14608320100331

【ロイター】
政府・民主が参院選マニフェスト作成で初会合、財源含め政策検証へ
2010年 03月 31日 21:27 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14608920100331
参院選マニフェストは5月末までに決定する予定。

【ロイター】
市場はギリシャの財政再建措置に報いると予想=ECB総裁
2010年 03月 31日 21:25 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14608820100331

【ロイター】
ゆうちょ銀、10年度は国債購入21兆円の見通し=資料
2010年 03月 31日 21:07 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-14608120100331

【ロイター】
インタビュー:GPIFの株式投資、著しい自国偏重はない=理事長
2010年 03月 31日 19:17 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14607420100331

【ロイター】
国債の単なる引き受け機関にはしない=郵政改革で首相
2010年 03月 31日 17:49 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14605820100331

【ロイター】
豪利上げ観測が後退、小売売上高の予想外の減少で
2010年 03月 31日 13:33 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14601020100331

【ロイター】
中国、31日から株式信用取引・空売りを開始=報道
2010年 03月 31日 10:19 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14595520100331

【ロイター】
G20、金融規制の強化に向け一段の取り組み必要と強調
2010年 03月 31日 09:27 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14593120100331

【ロイター】
フランスの「AAA」格付けを確認、見通しは安定的=フィッチ
2010年 03月 31日 05:15 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14589220100330

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