2009年10月25日日曜日

(10月20日)最後のバンカーの最後

日本郵政の西川社長が辞任記者会見を開いた。民主党政権が誕生して以降、脱小泉政治の旗色を強め、独自色を打ち出す民主党は、国民新党と連立政権を組んだ。郵政民営化は2005年9月11日の郵政選挙で大勝した小泉内閣が10月31日の内閣改造で竹中氏を経済財政担当大臣から総務兼郵政民営化担当大臣に任命し、加速することになった。また、この選挙では郵政民営化に反対した綿貫民輔氏や亀井静香氏が自民党を離脱し、少数政党の国民新党を立ち上げた。

その郵政民営化の象徴として西川善文氏が当時の小泉首相に社長就任依頼のため官邸に呼ばれたのが2005年11月11日。西川氏は強いリーダーシップで金融界の荒波を乗り越えてきた力量から「最後のバンカー」と呼ばれていた。昔、銀行アナリストにチラッと聞いたことがあるが、西川さんは怖い人という印象を持つ人は多いようだ。しかし、仕事上色々苦労を重ね辛酸を舐めてきたとの話も伝え聞く。その西川氏が三井住友フィナンシャルグループを退任を表明したのが2005年4月19日であった。西川氏が旧住友銀行の頭取に就任したのが1997年6月であったから、そのトップ在籍は8年弱と長期政権であったことからも色々な意味での実力者であったと言える。話が徐々に遡ることになるが、2003年の金融危機時にゴールドマンサックスから増資を引き受けた際は、その配当率が高いのではないか、何でこういうディールが成立したのかということが話題となったこともあったが、最終的には2005年3月期決算で与信関係費用(不良債権処理や貸倒引当金)が1兆円近くに増えた結果、当期純利益が前年度の3千億の利益から1369億の赤字に転じ、これを期に社長を退いたといわれている。

しかし、当時の日本の大手行の金融決算については人的要因も絡んでいると言われている。当時、金融庁の大手行検査担当官に有名なM検査官という人物がおり、この人が検査に乗り込んだ金融機関はことごとく損失処理が膨らんでいったという伝説がある。前年2004年度の検査担当はUFJで、ウィキペディアに書かれているように例の検査忌避事件発生が追い討ちをかけ、三菱東京FGが救済する格好での経営統合が実現することになった。更にその前年度はみずほHD(現FG)に乗り込んでおり、同HDはかの有名な1兆円増資に追い込まれたと言われている。このM検査官の行く先々で銀行検査の厳格化が行われたため、どうにかしてこの検査官の到来を回避しようと言う政治的な動きが無かったとは言えない。住友銀行はこのM検査官の担当をなんとか外れてきたのだが、2004年はこのM検査官が大手行全てを担当するという発令に至り、とうとう網の目がかかってしまった。個別行に検査に入るとなると、それだけで風説など色々な問題が出ないとはいえないからという配慮であったからかもしれない。そこにきての2005年度の赤字決算であったので、来るものがとうとう来たかという感じであったし、逆に1千億台の赤字はそれだけで住んだのか。。。という印象を持った記憶もある。

話が大分逸れたが、そのような経緯で退任した西川氏であったが、郵政選挙後に竹中担当大臣から白羽の矢が立ったというのは天啓であったのかもしれない。2006年1月に日本郵政株式会社代表取締役社長となった。日本郵政グループの過去の決算を見ると以下の通り。(06年度以前は郵政公社)。
 
(10億円)                 05年度  06年度  07年度  08年度
                      06年3末 07年3末 08年3末 09年3末
日本郵政グループ     経常利益  2,667.0  1,299.4  438.7  830.6
(旧日本郵政公社)    当期純利益  1,933.1   942.6  277.3  422.8
日本郵政株式会社単体  経常利益                42.6  109.9
               当期純利益               109.9  109.0
郵便局株式会社       経常利益                18.5  83.9
               当期純利益                4.7  40.8
郵便事業株式会社     経常利益   15.2    28.9   113.8  59.0
(旧郵便業務)       当期純利益   2.7     1.9   69.5   29.8
株式会社ゆうちょ銀行   経常利益 2,331.7    977.4  256.2   385.2
(旧郵便貯金業務)    当期純利益 1,930.4   940.7  152.2   229.4
株式会社かんぽ生命保険 経常利益  320.1    294.2  12.0  214.3
(旧簡易生命保険業務) 当期純利益               7.7    38.3
契約者配当準備金繰入額        150.3    177.4

旧郵政公社時の収入は郵便貯金業務の利益が莫大であるが、これは郵便貯金の有価証券運用(その殆どが国債(財政投融資の話をするとややこしいのでパス)運用であり、国のファイナンスにガッチリ組み込まれている)となっている。郵政グループになってからは郵貯銀行の利益が激減しているが、これは郵便局株式会社や単体の日本郵政公社などに業務委託などをすることで利益がそちらに配分され、バランスが取られているからだと考えられる。(自信がないが、たぶんそうだろう。)

日本郵政グループは特に赤字決算を計上したわけではなく、見た目は上手く言っていると言える。(当期純利益が大きく減っているのは、旧財政預託金の金利が高金利であったことによる運用収入が、その預託金の償還によってなくなったことによる部分も大きいと思われる。いわゆる、低金利で収入が減ったと言う類の話だろう。)

唯一なにか問題があったとすれば、かんぽの宿のオリックスへの一括売却で、当時の鳩山総務相と西川社長の間にバトルがあったことぐらいだろうか。ここでケチが続いた流れを受けて、夏の総選挙では民主党の政権交代という錦の御旗に「郵政見直し」が紛れ込み、国民新党との連立政権誕生によって、西川社長はロックオンされてしまった。江戸の敵を長崎で討つ的な意趣返しによって、西川氏のキャリアがここで断絶することになったと言っても良いだろう。個人的には郵政民営化、効率化は進めるべきであると思う。

そして、西川氏の退任記者会見が開かれた。下記産経新聞の西川氏の顔写真を見ると、口をへの字型にして無念さが強くにじんでいる。

【産経新聞】
【西川氏辞任】会見速報「カメラは出てけ!」「民営化と隔たり」 (1/4ページ)
2009.10.20 19:17
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091020/fnc0910201919021-n1.htm

色々なマスコミやテレビはこの日の西川氏の記者会見について「カメラは出て行け」というように、イライラしている西川氏の画面を流し、いかにもふてぶてしい敗軍の将、場合によってはにっくき人物のように映っており、西川氏は怖い人というイメージ刷り込みに繋がってしまっているが、様々なメディアを見ているとカメラがバシャバシャやたら写真をとって眩しいしシャッターはうるさいしで、西川氏が怒るのは当然である。あれだけフラッシュがたかれたら、子供がテレビがチカチカ光るのを見て「光過敏性てんかん」(ポケモンで起きた事件)になるみたいに西川氏が体調不良を訴えることになり得たかもしれない。そういうマスコミの非がある部分をマスコミ自身は報じずに、事情背景を説明せずにこのような動画を流し、西川氏を悪者に見立てているのは、例え直接西川氏の態度が悪いと言及しなかったとしても、不作為の罪以上に故意的な部分を感じざるを得ない。西川氏には大変同情を感じざるを得ない。
更に、この西川氏の後任に、旧大蔵事務次官の斎藤次郎が就任すると言う。斎藤氏自身の能力については申し分は無いかもしれないが、日銀総裁人事では2008年3月12日の参院での採決で財務事務次官経験者ということで民主党は武藤総裁案を蹴っている。当時の福田総理は続いて田波耕治氏を日銀総裁候補として提案したが、こちらも大蔵事務次官出身ということで、民主党は3月19日の参院本会議においてこの案を否決している。

この様な経緯があるため、今回、日本郵政グループ社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎が就任すると言うことは非常に大きな論理矛盾を感じる。まるで、安倍元総理が郵政民営化に反対した造反議員を復党させたときのような違和感を感じざるを得ない。鳩山政権は政権発足後2ヶ月弱と、まだまだ100日と言われる政権ハネムーン期間(ある程度のことは民意は寛容する期間)は終わっていないが、民主党政権は大きな十字架を背負ったと言える。それにしても、この金融相は小政党ながら大きな問題を次から次へと引き起こす。正直、ちょっといい加減にして欲しい。


《ニュース備忘録》

【ロイター】
日銀が潜在成長率を1%下回る水準に下方修正へ=関係筋
2009年 10月 20日 22:17 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12036820091020

【ロイター】
ドル安は中国のインフレリスクを高める=人民銀行副総裁
2009年 10月 20日 19:52 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12035820091020

【ロイター】
インタビュー:財務相の為替政策、介入もあり得る=内海元財務官
2009年 10月 20日 19:20 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12035620091020

【ブルームバーグ】
OPEC事務局長:原油バレル当たり80ドル以上は経済成長を阻害
2009/10/20 18:48 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920011&sid=aj4bRQ2oT478

【ロイター】
原油取引のドル建てからの変更計画知らない=OPEC事務局長
2009年 10月 20日 18:43 JST
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-12034520091020

【ロイター】
過去の意図的な円安を反省=藤井財務相
2009年 10月 20日 17:09 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12033520091020

【ロイター】
オバマ大統領の通商政策は「落第点」=グラスリー米上院議員
2009年 10月 20日 16:52 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12032120091020

【ロイター】
FRBへの新権限付与には反対=グラスリー(共和党)米上院議員
2009年 10月 20日 14:12 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12028720091020

【ロイター】
09年度税収は40兆円割れも、国債増発で対応=財務相
2009年 10月 20日 12:48 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12027220091020

【ロイター】
JAL支援で財務相と公的資金注入を協議=前原国交相
2009年 10月 20日 12:43 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12026920091020

【ロイター】
亡命ウイグル人組織リーダーが来日へ、中国の反発必至
2009年 10月 20日 12:17 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12025720091020

【ロイター】
郵政改革の基本方針を閣議決定、次期通常国会に法案提出へ
2009年 10月 20日 11:58 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12025120091020

【ロイター】
特別オペ「廃止・見直し」、金利上昇懸念で日銀内に温度差
2009年 10月 20日 10:13 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12021920091020

【ロイター】
ユーログループ、強いドル求め必要としている=仏経済財務雇用相
2009年 10月 20日 07:43 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12018320091019

【ロイター】
米オバマ政権が新たな住宅プログラムを発表
2009年 10月 20日 05:05 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-12016520091019

【ロイター】
ハンガリー中銀が金利を50bp引き下げ、3年強ぶり低水準
2009年 10月 20日 02:38 JST
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-12015420091019

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