財務省が発表した政府の取り組み
http://www.mof.go.jp/jouhou/seisakukinyu/kikinintei.htm
例えば、政府の取り組みをみると、指定金融機関(政策投資銀行や商工中金)が日本政策金融公庫から信用供与を受けて、危機対応業務として大企業や中堅企業に資金の貸付を行ったり、CPの買取を行ったりするというものである。政策実行当初、CPの買取枠は2兆円、長期の資金供与枠は1兆円であった。この他にも民間金融機関への信用保証もある。そのうち、長期の資金供与枠は2兆円に増え、資金需要の増加見込みから8兆円が追加されて合計10兆円規模になった。
中堅・大企業向けの資金繰り対策等としての危機対応の実施状況
億円 3月 4月 5月 6月 7月 8月 8末時点累計
貸付額 8,043 1,624 2,753 4,387 3,451 3,651 27,168
商工中金 570 200 458 438 1,001 307 3,103
政策投資銀行 7,473 1,424 2,295 3,948 2,450 3,344 24,065
CP買取額 800 610 220 530 100 3,610
商工中金
政策投資銀行 800 610 220 530 100 3,610
件数
貸付額 397 90 162 190 196 139 1,343
商工中金 204 53 116 123 134 81 783
政策投資銀行 193 37 46 67 62 58 560
CP買取額 16 14 6 10 2 68
商工中金
政策投資銀行 16 14 6 10 2 68
8月末時点の貸付額の累計は2兆7168億円まで増加しており、特に今年3月という期末、しかも株価が急落して信用問題が拡大したときに、この制度を利用した貸付が急増した。今後、この9月末にかけて貸付が増えているかどうかは、日本の金融市場の回復を考える上で、ある意味バロメーターになるだろう。この様な緊急制度の利用が9月に再び増加しているならば、それは信用リスクが改善していないか、民間の資金貸借市場がこの制度をモラルハザード的に利用しているかどちらかであろう。
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それ以上に問題と考えられるのが、日銀が昨年12月19日に決定したCPの買入オペ
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k081219.pdf
1月22日にCPオペの「コマーシャル・ペーパー等買入基本要領」を発表し、1月30日より実施
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/mok0901a.pdf
と、2月19日に決定された社債買入れオペ
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/mok0902b.pdf
の信用リスク市場への影響である。
これらは今年7月15日の金融政策発表時に、2009年9月30日までの期限が2009年12月31日へと延長されている。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/k090715.pdf
ちなみに、最新の「コマーシャル・ペーパー等買入基本要領」は
http://www.boj.or.jp/type/law/ope/yoryo42.htm
で、「社債買入基本要領」は
http://www.boj.or.jp/type/law/ope/yoryo44.htm
に掲載されている。この、CPと社債の買入オペの履歴をみると、日銀からのCP買入オペが毎回3000億円オファーされているに対し、オペ参加者から2月中はそれを上回る応札希望があったが、3月に入ってからの応札は1千億円前後で、3000億円のオペの枠まで応札金額が全然届いていない。8月には応札額がたったの100億円前後と、買入枠がかなり余ってしまっている。
また、社債の買入れについても1回あたりのオファー額が1500億円に対し、応札額が500億円前後に止まっている。
日銀の資金循環統計で全体の市場の大きさを確認すると、3月末時点のCP残高は13.6兆円、事業債は68.1兆円だ。一方、日銀のこの市場への関与度合いを計るために、日銀のオペレーションによる買入限度額をみると、CPが3兆円、社債が1兆円となっているものの、8月31日時点の買入れ残高はCP等が1014億円(CPが順次償還しているためとみられる)、社債が2488億円でしかない。
日銀の今年1月以降の短期(CP、社債、国庫短期証券)買入れオペの表
送信者 備忘録とかそういうの |
営業毎旬報告(平成21年8月31日現在)
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac090831.htm
もともと日本の金融機関は資金運用難であったわけだから、信用市場の破綻リスクが後退したのであれば、彼らが運用資産を手放すインセンティブが小さくなる。
信用リスクの縮小は正常値を超えるところまで進んでいるようで、例えば短期金融市場の月間平均金利を見ると、1ヶ月物でみて、今年1月のCP利回りが0.64%、Tiborが0.46%、無担保コール金利1ヶ月ものが0.25%と「CP>Tibor>無担Call」であったが、8月はCP利回りが0.21%と、Tiborの0.32%や無担保コール金利の0.27%を下回って「Tibor>無担Call>CP」となっている。CP金利には本来発行企業の信用リスクが含まれていて、その発行企業である事業会社は金融市場へのアクセスが潤沢にある銀行よりも金利の上乗せスプレッドが大きいと考えられているのだが、日銀がここまでバカスカ買うものだから、CPの金利低下が著しい。
短期金融市場金利月中平均
1ヶ月もの 3ヶ月もの 無担コール
% CP Tibor Call CP Tibor Call 翌日物
1月 0.64 0.46 0.25 0.84 0.74 0.88 0.12
2月 0.66 0.43 0.31 0.84 0.72 0.88 0.11
3月 0.63 0.59 0.52 0.66 0.69 0.35 0.10
4月 0.46 0.38 0.26 0.45 0.62 0.33 0.10
5月 0.36 0.35 0.24 0.39 0.59 0.32 0.10
6月 0.26 0.34 0.24 0.29 0.57 0.25 0.10
7月 0.27 0.33 0.21 0.29 0.56 0.27 0.10
8月 0.21 0.32 0.27 0.26 0.55 0.27 0.11
CPはコマーシャル・ペーパー、Tiborは東京銀行間オファー金利、Callは無担保コール金利。
加えて、買現先(日銀の資金供給)オペのレートをみても、民間の資金の取り手が国債を対象とするよりも、CPを対象にして資金を取るほうが利回りが低く資金調達できてしまうという異常事態にある。
こんな状況ならば、早々にCP買入れや社債買入れオペを減額(しても、そもそも応札額が少ないので意味が無い)や止めてしまっても良い。短期金融市場の金利のズレは、顕微鏡で見る世界の様にわずかな差ではあるが、MMFなど短期市場で資金を運用している主体の、運用金利がつぶされてしまっているわけだし、金融問題もここまでくればさすがにシステミックリスクの再発生による金融市場の大混乱が起きる可能性はかなり限定的になっていると考えてもいいだろう。
この様な歪な形の修正に向けた問題は、政治的に金融政策、それもこの様なオペレーションや市場の実態にまで理解の及んでいる政治家が少ないため、こういった金融支援オペレーションを止めるとなればギャーギャー文句が出始める可能性があることだ。情によって道理が通らなくなる原因になる可能性がある。この様な非伝統的な金融政策とくくられる制度について、この様な問題で理解度の少ない批評家などからムゲにタカ派だ批判を受けたりするリスクが生じる可能性は否定できない。その辺は、コミュニケーションの過程で滔々と理解を得ていくしかないのだが。
政権交代も起きて、今の民主党には日銀の金融政策に理解を示している人も居るやに見受けられるので、余計な波風を立てずに12月末まで待つのか、それともその前に止めるべきものは止めるのか、長期的な出口戦略の実行力を推し量る上でも、この様なテクニカルな実情に主要プレーヤーがどう対処するかを見ていきたい。
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