2009年8月24日月曜日

(8月19日)キング総裁の思慮

OECDが丁寧にも主要先進国の2009年4-6月期GDP成長率を取りまとめている。ただ、先週13日時点でEU統計局が主要国恩GDP成長率の結果を公表してしまっているので、特に新しい情報があると言うわけではない。

OECD Quarterly National Accounts - Second Quarter 2009
http://www.oecd.org/document/12/0,3343,en_2649_33715_43508876_1_1_1_1,00.html

前期比     08年         09年
        Q1  Q2   Q3  Q4   Q1   Q2
OECD合計  0.5 -0.1 -0.5 -1.9 -2.1   0.0
EU       0.7 -0.2 -0.4 -1.8 -2.4 -0.3
ユーロ圏    0.7 -0.3 -0.4 -1.8 -2.5 -0.1
先進7カ国   0.3 -0.1 -0.6  -1.9 -2.1 -0.1
カナダ     -0.2  0.1 -0.1 -0.9 -1.4 ..
フランス    0.5 -0.5 -0.2 -1.4 -1.3  0.3
ドイツ      1.6 -0.6 -0.3 -2.4 -3.5  0.3
イタリア     0.5 -0.6 -0.8 -2.1 -2.7 -0.5
日本       1.0 -1.1 -1.0 -3.5 -3.1  0.9
英国       0.8 -0.1 -0.7 -1.8 -2.4 -0.8
米国      -0.2  0.4 -0.7 -1.4 -1.6 -0.3
前年比
OECD合計   2.4   1.7   0.5 -2.1 -4.7 -4.6
EU        2.4   1.7   0.7 -1.6 -4.7 -4.8
ユーロ圏    2.2   1.5   0.5 -1.7 -4.9 -4.7
先進7カ国   1.9   1.3   0.0 -2.3 -4.7 -4.6
カナダ      1.7   0.7   0.3 -1.0 -2.1 ..
フランス     1.9   1.0   0.1 -1.6 -3.4 -2.6
ドイツ      2.9  2.0   0.8 -1.8 -6.7 -5.9
イタリア     0.4  -0.3 -1.3 -3.0 -6.0 -6.0
日本       1.5   0.6 -0.3 -4.5 -8.3 -6.5
英国       2.5   1.8   0.5 -1.8 -4.9 -5.6
米国       2.0   1.6   0.0 -1.9 -3.3 -3.9

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英国中銀が8月5~6日に行われた金融政策委員会の議事要旨を発表している。

Publication date: 19 August 2009
MINUTES OF THE
MONETARY POLICY
COMMITTEE MEETING
5 AND 6 AUGUST 2009
http://www.bankofengland.co.uk/publications/minutes/mpc/pdf/2009/mpc0908.pdf

この日の議事録では、6日に発表がなされた民間資産買い入れ500億ポンドの追加の背景にどのような議論

が行われていたかが注目であった。議事録を読むと、

「29より The projections indicated that an increase in asset purchases of £50 billion would probably needto be combined with a lower path of Bank Rate than implied by market yields to balance the risks ofinflation around the 2% target in the medium term.」(見通しが指し示すところによれば、中期的な2%程度のインフレ見通しに対するリスクをバランスさせるため、市場が織り込んでいる金利よりも低位の銀行間金利の経路と組み合わせて、500億ポンドの資産買い入れ増額が必要であろう。)

と、買入増額が議論の基本路線として討議されており、

「32より all members agreed that substantial further asset purchases were needed over the next three months.」(全ての参加者は、今後3ヶ月間に実質的に追加の資産買い入れの必要性に合意した)

と、買い入れがメンバー全員に共有されていたことが示された。

ここまでは、まぁ想定どおりだったと言えるのだが、問題は、

「For most members, an increase in the size of the asset purchase programme of £50 billion to a total of £175 billion was warranted, while for others there was a case for a larger stimulus.」(多くのメンバーは500億ポンド追加し、総額1750億ポンドの買い入れが適正と考えたが、その他のものは更なる緩和を考えていた)

と、述べたものだから、この緩和バイアスはかなり予想外の結果であった。元来、欧州系の中央銀行は金融政策をインフレ目標に忠実に、ややタカ派的に運営するきらいがあると考えられていた。今回も、6日の発表前までは買い入れプログラム終了が規定路線と市場で考えられていたことから、これほどの緩和意見への委員会メンバーの傾きは意外であったといえる。

さらに、投票結果を見ると、

「The Governor invited the Committee to vote on the proposition that:

Bank Rate should be maintained at 0.5%;

The Bank of England should finance a further £50 billion of asset purchases by the creationof central bank reserves, implying a total quantity of £175 billion of such asset purchases.The Bank should seek to complete the additional purchases within the next three months.

Six members of the Committee (Charles Bean, Paul Tucker, Kate Barker, Spencer Dale, Paul Fisherand Andrew Sentance) voted in favour of the proposition. Three members of the Committee (theGovernor, Tim Besley and David Miles) voted against, preferring to increase the size of the assetpurchase programme by £75 billion to a total of £200 billion.」

(6人のメンバーは総裁から提案された『政策金利を0.5%にすること、資産買入れを500億ポンド増額し、総額1750億ポンドとして、その買い入れ期間を3ヶ月間延長する』ということに賛成票を投じた。一方、「総裁、ティム委員、デービッド委員」の3名は、資産買い入れ額を750億ポンド増額して、総額2000億ポンドとすることに投票した)

と書いてあったものだから驚きが大きかった。総裁が自ら総意の汲み取って提案した議案に反対票を投じて、更に緩和的な姿勢を示したと言うことで、市場はポンド安、ギルトの金利低下で反応した。

これは、キング総裁が市場にサプライズを与えるために、500億ポンドの買い入れで決まりそうだと言うことを承知した上で、あえて追加緩和姿勢を議事要旨公表時に市場に織り込ませようとしたという、かなり技巧派的な行為の上での提案であったのか、逆にそれだけ英国経済の不確実性が高いのか。その評価はこれからの経済動向の結果にかかっている訳だが、少なくとも、ここまでの緩和姿勢を示したからには、出口戦略時で金融政策を引き締め方向に転換する際には、丁寧な説明が必要になるだろう。

今、金融政策はマクロ政策的な金利操作と、金融危機に対応した臨時的な対応、特に、オペレーション手段の拡充などの非伝統的金融政策とを分離して考えることで、例外的な資産買入れや担保設定から中央銀行が足を引くときに、市場の過度の思惑を呼ばないように「この政策終了はいわゆる金利引き上げにつながる出口戦略ではなく、危機対応の終焉に伴う正常化に戻すだけ」と説明するための布石を打ち始めているようにも見える。

とすれば、英国の予想外の資産買い入れは、それだけ金融システムが脆弱だと言う判断が働いているからなのか、それとも金融システムではなく、本来目標の第一とするインフレ見通しに下落リスクがあるため、ある程度資金供給を増やしてリフレーション的な政策を包含したものであるのか。


《ニュース備忘録》

【ロイター】
中国国務院、銀行に中小企業向け融資の拡大を要請
2009年 08月 19日 21:27 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-11091720090819

【ロイター】
英中銀総裁、資産買い入れ規模の750億ポンド拡大を主張=議事録
2009年 08月 19日 19:31 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11090320090819

【ロイター】
7月粗鋼生産量は前年同月比‐24.9%、前月比は+11.3%=鉄連
2009年 08月 19日 14:30 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-11084720090819

【ロイター】
焦点:米FRBのMBS買い取り、10年まで延長も
2009年 08月 19日 14:26 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11084620090819

【ロイター】
英国債ディーラー、10月か11月にシンジケート通じた50年債の発行希望
2009年 08月 19日 08:54 JST
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-11074620090818

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