2009年5月6日水曜日

(DVD)エンロン

ゴールデンウィーク中、色々DVDを見たが、ドキュメンタリーとして「エンロン」は結構面白かった。

エンロンについての解説はGoogleで検索すればウィキペディアなどで詳しい解説がなされているが、簡単に概略を書くと、同社は1985年に合併によって誕生したエネルギー会社だ。画面では当時のCEOケネス・レイよりも、COOのジェフ・スキリングに焦点を当てて、どれだけ彼らがエコノミック・アニマルであったかということが描写されている。

~以下、その内容~

物語の中で、COOスキリングが会社を単なる石油会社からエネルギー・トレーディングの舞台装置へとビジネスモデルを転換することで、同社の業界におけるパワーが飛躍的にアップしたことから始まる。ただし、同社は破綻の大分前の1987年にもトレーダーの横領事件を起こしており、この問題に厳正に対処できなかったモラルの欠如が、後々膿となって出てくることを想起させている。

同社は時価会計の導入によって、将来利益を現在に割引き計上することが出来るようになり、利益が飛躍的に伸びた。これは単なる利益の先食いであるため、本来、財務担当者はこういう利益は保守的に見積もらなければならないにもかかわらず、積極的にこれらを計上していったという「人為的過失」である。ブロードバンド事業への進出や、インドの発電所計画など、実行初期段階で利益を計上し、時間と供にこれらの事業が立ち行かなくなると遣り繰りに行き詰まるというのは、典型的な駄目企業である。

この企業が抱える幾つかの大きな問題点はこれだけではなく、CFOのアンドリュー・ファストウが作り出した、ブドウの房のように連なる特別目的会社(SPE : Special Purpose Entity)、中でもLJMというブラックボックスもその一つである。この魅惑の箱には、多くの名だたる投資銀行が出資しており、エンロンから多額の顧問料(物語の中では週100万ドルと語られている)を受け取っていたアーサー・アンダーセンが、その会計を承認していた。ファストウ氏はこの様な特別目的会社を多数作成することで利益を操作し、損失を飛ばしていたと描写されている。また、アーサー・アンダーセンはエンロンの会計粉飾発覚時に関係資料を無断で破棄して隠蔽を図っていたことから社会的地位を落としてしまい、解散に追い込まれている。不正は後々大きなしっぺ返しとして降りかかるという典型的な事例だ。

同社の終末期には、カリフォルニアの計画停電など、いわゆる安く買って、停電で高くなったら売ると言う、同社が価格操作まがいのアニマルスピリットを発揮し、横暴にもカリフォルニア市民の富を搾取する姿が描かれている。CEOケネス・レイが進めた電力自由化によって、それが正当な自由化ではなく、支配者が公的機関から寡占市場というベールをかぶったエンロンに変わっただけであった。この部分だけを取り出すと、自由化、民営化は反対だと言う人が勢いづきそうだ。

最終的には、こういった不正が跋扈した会計と、虚飾で塗り固められた収益構造の崩壊が、エンロンを突然死に追いやったと描かれている。エンロンの最後は、エネルギー会社ではなく、野蛮で下衆なトレーダーが支配するイカサマ賭博場となっていた。

この映画を見て思ったのは、個人が巨額の不正を作り出すことは出来ず、一連の虚像は様々な人間や組織のシガラミが絡み合って作られるものだということだ。その中で、印象的なのは、政治的な権威やマスメディアへの露出などの装飾が確からしさの無い「信頼」を膨らませ、それが磁石となって様々な人間の資金がブラックホールに吸収されてゆくという姿だ。

映像の中で、元同社社員がインタビューに対し、「Every one was on a band wagon, and it can happen again...(みんなが一つの車に乗っていたの。それは、また起きるわ。)」と言っていたことが印象的であった。このDVDは2006年にDVDとして発売(映画は2005年だろう)されたものだが、最近のマドフ問題などを見るにつけて、歴史は繰り返すということを思い知らされる内容であったと言える。アレだけ巨額のねずみ講的詐欺を成功させてきたのは、彼一人の力ではなく、たくさんの人間が関わっているのであろう。また、同様のドキュメンタリー映画がでるならば、このエンロンの映画と見比べてみたいと思った。

個人的には、問題の背景を知る上でとても面白かったので星は☆☆☆☆だが、金融問題に興味がないと、評価はここまでいかないかもしれない。勉強にはなった。

0 件のコメント: