2011年8月16日火曜日

(5月13日-2)枝野官房長官の債権放棄に絡む失言or確信犯!?

東日本大震災からの復興に関する法案が国会に提出された。それを受けて、枝野官房長官が記者会見を開いたのだが、その中のコメントが金融市場に大きな不安を巻き起こした。金融機関側からすると、原発事故で資金繰りが苦しくなっている東京電力に非常時であるがゆえに追加融資をしているのに、足もとからその企業向けの貸付が回収不能になっていくのは、株主にも責任がつかないし、これ以上東京電力に貸せなくなると、翌日から一斉に反発が出た。

確かに、金融機関をたたくことで世論の溜飲を一部下げてもらうという考えを政治家として持つ気持ちもわからなくもない。過去の不良債権処理時に納税負担を追いながら処理損失を出した裏返しで、これまで繰り延べ税金資産の効果によって、その部分を納税しないで済んできた金融機関に「税金を納めてないんだから投資家責任で貸出しの毀損を受け入れろ」と短絡的に考えたくなるのもわかる。

しかし、金融の世界は信用の世界で、一度疑念がわき起こるとそれがシステム的な変動の引き金を引きかねないというのは、肝に銘じておかねばならない。記者会見のビデオを見ると、言葉を選びながらも、いかにも心に期するものがあるという発言であるが、その後の反発や結果を見ていると、根回しも何もできていないことがわかる。思いとは裏腹に、政治なのであるから、それなりの手を打っていないのであれば、こういう発言は無用な混乱を招くだけである。気持ちはわかるが、過去に金融機関はそれなりの負担をしてきているわけだし、ロジックが通っていない。

【内閣法制局】
東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案
閣法第70号
閣議決定日:平成23年5月13日
国会提出日:平成23年5月13日
http://www.clb.go.jp/contents/diet_sinsai/reason/177_law_070.html
衆議院
東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案
東日本大震災が、その被害が甚大であり、かつ、その被災地域が広範にわたる等極めて大規模なものであるとともに、地震及び津波並びにこれらに伴う原子力発電施設の事故による複合的なものであるという点において未曾有の災害であることに鑑み、被災地域の復興についての基本理念を明らかにするとともに、東日本大震災復興対策本部を設置する等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

【衆議院】
第一七七回
閣第七〇号
東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705070.htm
14分頃から東京電力の責任と金融機関の融資についての質疑応答があり、東日本大震災に際しての追加融資については考慮すべき点があるが、3月11日以前からの融資については(融資の債権放棄などをしなければ)「国民の理解は到底得られない」との枝の官房長官の発言。この午前の記者会見の発言が、金融市場を大きく揺さぶり、金融株の下落を誘発した。

【官房長官記者会見】
2011/05/13
平成23年5月13日(金)午前(9:56~)-内閣官房長官記者会見
※この映像は過去に配信したものです
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4816.html

6分ごろから原子力発電所の事故に関する賠償スキームについての質疑応答が続く。

【官房長官記者会見】
2011/05/13
平成23年5月13日(金)午後(15:58~)-内閣官房長官記者会見
※この映像は過去に配信したものです。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4821.html
[冒頭発言]
なし

【ZAKZAK】
枝野“責任転嫁”必死「銀行は東電の債権放棄しろ」
2011.05.13
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20110513/plt1105131613002-n1.htm
枝野幸男官房長官は13日、福島第1原発事故の賠償支援策に関し、金融機関が東京電力の債権放棄などの貸し手責任を負わない限り「国民の理解は到底得られない」と述べた。

事故発生前に金融機関が実施した融資は「事故のリスクを考慮に入れて融資がなされているというのがマーケットの基本だ」と述べ、金融機関にも一定の責任があると強調している。

昨年3月末時点の東電への長期融資残高は、日本政策投資銀行が3511億円、日本生命保険1407億円、第一生命保険1263億円、三井住友銀行1219億円、みずほコーポレート銀行818億円となっている。

ただ、事故後に大手行などが行った約1兆9000億円の緊急融資については「経緯、状況が異なる。別に考えないといけない」と語り、配慮が必要だとした。

枝野官房長官

【ブルームバーグ】
枝野氏:政府の東電支援、債権放棄など金融機関の協力前提-会見(4)
2011/05/13 17:59 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920019&sid=afFpAbxcloyw
5月13日(ブルームバーグ):枝野幸男官房長官は13日午前の閣議後会見で、東京電力福島第一原子力発電所事故をめぐる賠償スキーム(枠組み)に盛り込まれた機構を通じた公的資金による支援は、震災前債権の放棄など金融機関による協力が前提になるとの認識を示した。

枝野氏は金融機関が3月11日の東日本大震災前に東電に対して行っていた融資の債権放棄が一切なされなくても公的資金の活用に国民の理解が得られるかとの質問に対し、「現時点では『民民』の関係なので発言に注意したいと思うが、国民の理解得られるかといったら、それは到底、得られることはないだろうと思っている」と語った。

枝野氏は午後の会見では具体的な金融機関による協力のイメージについて聞かれたが、「現時点で政府は東京電力の株を直接、持っているわけではない。マーケットに絡む話なので、あくまでも『民民』の関係で、公権力が直接的なことは言わない方がいい」と回答を避けた。

【読売新聞】
東電融資に政府が異例介入…金融界、一斉反発
2011年5月14日10時04分 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110514-OYT1T00240.htm
東京電力福島第一原子力発電所の事故の損害賠償の枠組みを巡り、枝野官房長官は13日の記者会見で、東電の取引金融機関に一部債権放棄(借金の棒引き)を求めた。

民間の取引に政府が介入する異例の発言に対し、金融機関は反発している。東電の破綻回避と賠償金の支払いを確実にするための枠組みも崩しかねない。

◆「不健全」◆

枝野長官は13日の記者会見で、震災前の融資分が債権放棄されなくても公的資金投入に国民の理解が得られるかと問われ、「到底得られないと思う」と述べた。さらに、債権放棄が実現しなければ公的資金を投入しない可能性にも言及した。

これに対し、同日の決算発表の席上で、金融機関トップからは「最初から金融機関に放棄してもらえばいいというストーリーは健全ではない」(みずほ信託銀行の野中隆史社長)などと反発する声が広がった。

そもそも、枝野発言は、公的資金を投入しなければ、東電が破綻し、賠償金の支払いにも支障が出かねないという矛盾も抱えている。政府内からも「基本的に東京電力と金融機関の話。政府が介入するのはどうか」(経済閣僚)と疑問の声が上がった。

<無担保が大半>

◆「優良企業」◆

枝野長官が言及したのは、震災後に大手行が行った約2兆円の緊急融資を除いた約2兆円についてだ。東電が優良企業だったこともあり、大半は担保を取っていない無担保融資だ。

このため、東電が債権放棄などの金融支援を要請した場合、取引金融機関は貸し倒れに備えた引当金を大幅に積み増し、最大数千億円の損失計上を迫られる。新たな融資をすればするほど損失を計上する必要があり、取引行は「新規融資には応じられなくなる」(幹部)と反発している。

金融機関に負担を求めるのは当然という感情論だけでは、枠組みの前提となる金融機関の協力が得られなくなる可能性が高い。

東電の信用力も低下するのは確実で、13日の東京株式市場で東電株は大幅続落した。企業が破綻するリスクを取引する金融派生商品(クレジット・デフォルト・スワップ)のうち、東電のスプレッド(保証料率)も急拡大した。「破綻確率が高まった」と受け止めた投資家が増えたためだ。

社債などの発行は一段と困難になる可能性が高く、東電が市場からも資金調達ができなくなり、東電を破綻させずに損害賠償を進めていく政府の枠組みが機能しなくなる危うさをはらんでいる。

銀行が債権放棄に応じるためには、東電が実質的な債務超過に陥っていることが前提となる。しかし、現時点では被災者への損害賠償や、福島第一原発の廃炉に必要な費用も見積もれない段階で、債務超過の認定ができるのか、疑問視する声が多い。(是枝智、越前谷知子)