FRBの量的緩和に対する議論が米国新聞紙上で白熱している。11月4日にバーナンキFRB議長はワシントンポスト紙に量的緩和の効果についてコメントが掲載されていた。一部でFRBの国債購入が株価押し上げにつながることをバーナンキ議長が明確化したというニュアンスでニュースが伝わっているが、まじめにワシントンポストの文章を読むと、市場がそういった反応をしたということを述べ、議論のスタート地点として株価が上昇するならば、消費などに効果があるだろうという文脈を展開している。国債買入れがすなわち株価を上昇させているとの根拠については語られていない。
FRBは雇用の最大化と物価の安定と言う2つの金融政策目標を掲げているが、この物価安定に対して批判が出るだろう事を想定し、過去2008年、2009年にFRBが資産買入を行ったときにはインフレの急進は見られなかったことを明示している。
【ワシントンポスト】
What the Fed did and why: supporting the recovery and sustaining price stability
By Ben S. Bernanke
Thursday, November 4, 2010
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/11/03/AR2010110307372.html
The FOMC decided this week that, with unemployment high and inflation very low, further support to the economy is needed. With short-term interest rates already about as low as they can go, the FOMC agreed to deliver that support by purchasing additional longer-term securities, as it did in 2008 and 2009. The FOMC intends to buy an additional $600 billion of longer-term Treasury securities by mid-2011 and will continue to reinvest repayments of principal on its holdings of securities, as it has been doing since August. (失業率が高く、インフレがとても低い中、FOMCは今週経済に対し更なる支援が必要だと判断した。短期金利は既に行けるところまで低下していることから、FOMCは2008年や2009年に行ったような長期の債券を追加適任購入することで支援を行うことに合意した。FOMCは追加的に6000億ドルの長期国債を2011年央までに追加的に購入し、8月以降行っている証券保有分の元本償還を再投資にまわすことを意味する。(FRBの資産残高を維持するような再投資に加えて6000億ドルの国債購入))
This approach eased financial conditions in the past and, so far, looks to be effective again. Stock prices rose and long-term interest rates fell when investors began to anticipate the most recent action. Easier financial conditions will promote economic growth. For example, lower mortgage rates will make housing more affordable and allow more homeowners to refinance. Lower corporate bond rates will encourage investment. And higher stock prices will boost consumer wealth and help increase confidence, which can also spur spending. Increased spending will lead to higher incomes and profits that, in a virtuous circle, will further support economic expansion. (この様な手段は過去に金融状況を緩和し、再度効果があると見込む。最近のこの様なFRBの政策を投資家が予想しはじめた時に、株価が上昇し、金利が低下した。金融状況の緩和は経済成長を促進する。例えば、モーゲージ金利の低下は住宅を購入しやすくし、住宅保有者の(低利)借換えも促す。社債利回りの低下は投資を促進する。そして、株価の上昇は消費者の富を増やし、消費者心理を高め、消費を加速させる。消費拡大は収入や利益を高め、好循環の下で更なる景気拡大を支援するだろう。)
While they have been used successfully in the United States and elsewhere, purchases of longer-term securities are a less familiar monetary policy tool than cutting short-term interest rates. That is one reason the FOMC has been cautious, balancing the costs and benefits before acting. We will review the purchase program regularly to ensure it is working as intended and to assess whether adjustments are needed as economic conditions change. (米国や他の地域でそれらは成功を収めたが、長期証券の買入は短期金利の引き下げと比べ、金融政策手段としてなじみが薄い。それは、FOMCが実行する前に費用と便益のバランスについて慎重であったからだ。我々はそれが意図したような機能を果たしているかどうか確かめるため、定期的にこの資産買入プログラムを見直し、経済状況の変化に対して調整が必要かどうかを精査する。)
Although asset purchases are relatively unfamiliar as a tool of monetary policy, some concerns about this approach are overstated. Critics have, for example, worried that it will lead to excessive increases in the money supply and ultimately to significant increases in inflation. (資産購入は金融政策手段として比較的になじみが薄いため、この手段が誇張されているのではないかとの懸念も幾つか見られる。例えば、それらの批判は通貨供給を過度に増やし、究極的にインフレを急進させるのではないかと言う心配があろう。)
Our earlier use of this policy approach had little effect on the amount of currency in circulation or on other broad measures of the money supply, such as bank deposits. Nor did it result in higher inflation. We have made all necessary preparations, and we are confident that we have the tools to unwind these policies at the appropriate time. The Fed is committed to both parts of its dual mandate and will take all measures necessary to keep inflation low and stable. (我々が以前この政策を実行したとき、通貨供給量やより広範の指標であるマネーサプライ、例えば銀行預金のようなものへの影響は非常に限定的であった。また、高インフレと言う結果にもならなかった。我々は全ての必要な準備を行い、適切なときにこれらの政策を解除する手段を有するとの確信がある。Fedは2つの金融政策目標(雇用の最大化と均衡インフレ)と、全ての必要とされる手段を通じてインフレを低位安定に維持することにコミットする。)
The Federal Reserve cannot solve all the economy's problems on its own. That will take time and the combined efforts of many parties, including the central bank, Congress, the administration, regulators and the private sector. But the Federal Reserve has a particular obligation to help promote increased employment and sustain price stability. Steps taken this week should help us fulfill that obligation. (FRBは全ての経済問題を我ら自身で解決することはできない。それは時間がかかり、中央銀行、議会、行政、規制当局や民間部門など多くの部門の協力的な努力が要される。しかし、FRBは雇用の拡大と物価安定の維持を支援する特別な義務がある。今週採用された手段はその義務を満たす助けとなるだろう。)
The writer is chairman of the Federal Reserve Board of Governors. (筆者はFRB総裁)
バーナンキFRB議長
【ブルームバーグ】
FRB議長:国債購入拡大は経済成長促進へ-WP紙に寄稿(Update2)
2010/11/04 10:49 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=alD9ch3a6n2s
【ロイター】
米追加緩和、インフレ引き起こさず=バーナンキFRB議長
2010年 11月 4日 10:33 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17986020101104
このようなヘリコプター・ベンならぬバーナンキさんの記事に対し、共和党系のエコノミストなどが金融政策に対する反対意見を連盟でウォールストリート・ジャーナルに掲載している。しかし、この資産購入の影響がドル安につながったのか、デフレ阻止に役立ったのか、あるいはインフレの引き金になったのかは、時間が経ってみないと分からないし、その功罪を1通りの道筋しかない現在の時間の流れと経済の進展の中で、どれだけ要因分解して検証できるのかは不明だ。もし、景気が良くなれば国債購入の有無に限らずバーナンキさんの名誉となり、スタグフレーションになったとするならば、この共和党系の批判論者の台頭につながる。
FRB議長に公開書簡を送ったAQRキャピタルのクリフ・アスネス
【WSJ】
November 15, 2010, 12:01 AM ET Open Letter to Ben Bernanke
http://blogs.wsj.com/economics/2010/11/15/open-letter-to-ben-bernanke/
The following is the text of an open letter to Federal Reserve Chairman Ben Bernanke signed by several economists, along with investors and political strategists, most of them close to Republicans: (以下の文章は幾人かのエコノミスト、投資家、政治ストラテジストらによって署名された、FRB議長のベン・バーナンキ氏に対する公開質問状の文面であり、彼らの殆どは共和党に近い。)
We believe the Federal Reserve’s large-scale asset purchase plan (so-called “quantitative easing”) should be reconsidered and discontinued. We do not believe such a plan is necessary or advisable under current circumstances. The planned asset purchases risk currency debasement and inflation, and we do not think they will achieve the Fed’s objective of promoting employment.(我々はFRBが量的緩和と呼ぶ大幅な資産購入計画を再考し、中止すべきと信じている。我々はそのような計画が現在の状況下で必要であるとも、賢明であるとも信じない。計画された資産購入は、通貨の下落やインフレリスクとなり、我々はFRBの目標である雇用の拡大をそれにより達成できるとは考えない。)
We subscribe to your statement in the Washington Post on November 4 that “the Federal Reserve cannot solve all the economy’s problems on its own.” In this case, we think improvements in tax, spending and regulatory policies must take precedence in a national growth program, not further monetary stimulus.(我々は11月4日のワシントンポスト紙「FRBは全ての経済問題を我々自身のみで解決することはできない」とのあなたの声明に同意する。このケースでは、我々は税制、歳出、規制政策の改善などが国家の成長プログラムにおいて優先されるべき事項であり、更なる金融緩和ではないと考える。)
We disagree with the view that inflation needs to be pushed higher, and worry that another round of asset purchases, with interest rates still near zero over a year into the recovery, will distort financial markets and greatly complicate future Fed efforts to normalize monetary policy.(我々はインフレを高く押し上げる必要があるとの見方に賛成しないし、景気回復局面に入って1年以上たっても政策金利がゼロ近辺に設定されているなか、追加の資産購入は金融市場にゆがみをもたらし、金融政策の正常化に向けた当局の将来の取り組みを極めて複雑にすると心配する。)
The Fed’s purchase program has also met broad opposition from other central banks and we share their concerns that quantitative easing by the Fed is neither warranted nor helpful in addressing either U.S. or global economic problems.(FRBの購入計画は他の中央銀行から幅広い批判に直面し、Fedによる量的緩和は米国や世界経済問題に対して保証にも支援にもならないとの彼らの懸念を我々は共有する。)
【ブルームバーグ】
FRBに資産購入の中止を要請-23人のエコノミストらが公開状
2010/11/16 04:07 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=avc.nSBjV83g
【ウォールストリート・ジャーナル】
FRBの追加緩和策に新たな攻撃-エコノミストらが公開書簡
2010年 11月 16日 9:37 JST
http://jp.wsj.com/US/node_148968
【ワシントン】米連邦準備理事会(FRB)による米景気てこ入れを目指す最新の政策が共和党寄りのエコノミストおよび政治家の非難の的となっており、FRBが超党派政治に一層深く引き込まれる可能性が生じている。
共和党寄りの著名エコノミストのグループは共和党の議員と政治戦略家をとりまとめ、今週、バーナンキFRB議長に6000億ドル規模の追加的な米国債購入策を取り下げるよう要請する運動を開始する。
バーナンキ米FRB議長
このグループはウォール・ストリート・ジャーナルとニューヨーク・タイムズ両紙の今週の広告として公表した公開書簡で、「(FRBが)計画する資産購入は為替相場の下落とインフレのリスクを高め、雇用促進というFRBの目的を達成することにはならないと考えている」と指摘した。
関係筋の一人によると、同エコノミストらはポール・ライアン次期下院予算委員長(ウィスコンシン州)をはじめとする共和党議員と話し合いを進めており、週末には共和党の潜在的な大統領候補者とも協議を開始した。
また、外国の一部の経済閣僚らは、外国為替市場でのドル相場の引き下げ効果を伴うFRBのこの効果的な造幣措置を批判している。オバマ米大統領は先週、FRBの政策を擁護し、量的緩和として知られる追加的な債券購入政策は「景気拡大を意図したもので」、ドルの下落を目指すものではないとの見解を示した。
FRBは民主・共和両党からの頻繁な批判にもかかわらず、過去30年間にわたり、金融政策に関して著しい独立性を享受してきた。しかし、今回の新たな運動を組織する向きは、FRBはますます政治的な紛争に巻き込まれることになろうと予測している。保守派の草の根運動、茶会党(ティーパーティー)の影響を大きく受けた共和党議員らは大きな政府プログラムに対する有権者の拒絶に熱心に焦点を絞っており、保守派は本質的に造幣を意味するFRBの新政策は、共和党が過半数を占める新下院の調査の対象となる可能性が高く、引いては2012年のオバマ大統領の再選に向けた選挙戦での課題となる可能性が高いと指摘している。
FRBの政策に反対を強める保守派グループとの初期の協議に詳しいマイク・ペンス議員(共和、インディアナ州)は、「造幣は景気刺激策の代わりではない」と指摘した。同氏はこの書簡の署名者は、「人為的にインフレを創出することにより基本的な問題を覆い隠すのではなく、減税と歳出削減、規制緩和により景気刺激策を模索すべきだと考える米国民の高まる批判を代弁している」と語った。
米議会予算局(CBO)のダグラス・ホルツ・イーキン元局長
FRBはまた、左派からも異なる種類の圧力に直面する可能性がある。下院金融委員会委員長を含む民主党の著名議員の一部は、量的緩和の動きを支持している。
しかし、12年11月の米大統領選が近づいても米経済が引き続き失望的な状況となっている場合には、米政府関係者と民主党議員はFRBに米景気回復を持続するために一層の措置を取るよう圧力をかける可能性がある。
ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・スティグリッツ氏とポール・クルーグマン氏など、著名なリベラル派エコノミストの一部は既に、量的緩和の効果に疑問を呈しており、米経済の健全性回復には一段の景気刺激策が必要だと主張している。
FRBを批判する書簡に署名したのは、スタンフォード大学のエコノミスト、マイケル・ボスキン氏(ブッシュ
H.W.元政権時代に経済諮問委員会(CEA)委員長を務めた)とジョン・テイラー氏(金融政策研究者としてブッシュ両政権に仕えた)。そのほか、保守派のアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のエコノミスト、ケビン・ハセット氏、米議会予算局(CBO)元局長で、ジョン・マケイン氏の大統領選でのアドバイザーを務めたダグラス・ホルツ・イーキン氏などが名を連ねる。
FRBの広報官は14日、「FRBはインフレ率を低水準で安定させるとともに、雇用創出を促進する政策をすべて採用する」と明らかにした。さらに、FRBは債券購入に向けて「必要な調整をする用意があり、適切な時期にこうした政策を段階的に終了する手段を持ち合わせていると確信している」と続けた。
同報道官はさらに、「FRB議長はまた、FRBは単独では経済問題の解決は難しいと考えている、と指摘している」と明らかにした。「それには時間がかかる上、FRBと議会、政権、規制当局者、民間部門といった多くの向きの努力を結集する必要がある」と説明した。